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東京高等裁判所 昭和57年(行コ)227号 判決 1983年9月27日

控訴人(原告) 横田久夫

被控訴人(被告) 蒲田社会保険事務所長

参加人 厚生大臣

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用(参加によつて生じた費用を含む。)

は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が昭和五三年三月九日付で控訴人に対してなした保険給付金支給決定取消処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人及び参加代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、次に付加するほかは、原判決事実摘示「第二 当事者の主張」のとおりであり、証拠関係は、記録中の証拠目録のとおりであるから、これらを引用する。

(控訴人)

従前柔道整復師の施術料金の準拠とされていた基準は、保険者と柔道整復師の団体との協定に基づいて定められていたものであり、厚生省保険局長の従前の各通知及びこれに添付された料金表は、保険者が右団体と協定を結び、又はその協定を改定するに際し考慮されるべき行政庁の内部的指導に過ぎないものであつて、右通知及びその添付料金表が、直接柔道整復師の施術料金ないし療養費の基準になるとの形式をもつものではなかつた。

右協定は、保険者と柔道整復師団体との間で締結されているものであるが、それは、施術料金のほか、施術項目、療養費の委任払方式を認めているものである。右療養費委任払は、実質上保険給付(療養費の支給)と同様の効果があり、担当柔道整復師が、被保険者からの受任者という形式で保険者から直接施術料金を受領することができるという長所があるため、多少施術料金が低額でもこれを甘受しなければならないということになつているのが実状である。それは、柔道整復師に対する療養費の委任払を認めるという特典を与える代わりに柔道整復師団体は協定料金を認めざるを得ないという力関係になつているものである。したがつて、右協定を締結している柔道整復師団体に所属していない柔道整復師は、右協定の特典である療養費の委任払を認められていないものであるから右協定料金に拘束される理由は全くない。かかるものの施術料金は原則として自由に決定しうるいわゆる自由料金であり、保険者は、保険給付としての療養費支払(後払)をなすにつき、被保険者が現実に支払つた料金を考慮して、健康保険法四四条ノ二の解釈として厚生省告示によつて療養費の支給額を定めるべきもので、右施術料金が厚生省告示の枠内の料金である以上特段の事情がない限りその料金を被保険者に支給すべきである。

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次に付加、訂正するほか原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。

一  原判決の付加、訂正

原判決二七枚目表三行目の「乙第一一号証」とある次に「及び当審証人亀山八郎の証言」を加え、同二七枚目表六行目の「(このことは、」から同八行目の「柔道整復師会」までを「、その決定及び改正に伴い、項目毎に調査・検討し、全国の柔道整復師の九〇パーセント以上の会員によつて組織されている社団法人日本柔道整復師会」と改め、同原判決三〇枚目表四行目の「明らかである。」とあるのを「前出の証拠によつて認められる。」と改め、同裏一行目の「当然といえる。」の次に「また、成立に争いのない乙第五号証によれば、あんま、マツサージ師についても同様に質的差異を認め、ただ施術に要する費用の額について、厚生省告示の額を一部利用しているにすぎないことが認められる。」と加える。

二  控訴人の当審における主張について

前出乙第五号証、成立に争いのない乙第六ないし第一〇号証、丙第一号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第八号証、第一三号証、乙第一一号証によれば、柔道整復師の所属団体と都道府県知事との間に、健康保険法等による施術について協定を締結したことが認められるが、右証拠によると、同協定は、保険局長通知による施術料を前提として、保険者から被保険者等が施術料を受領するについての委任、柔道整復師の指導監督等に関し協定をしたものであることが認められるから、これによつて健康保険法の解釈が決まるものでないことは勿論、柔道整復師の団体に所属していない柔道整復師(原審証人アラルコン・イマヌエルの証言によると、柔道整復師であるアラルコン・イマヌエルは、社団法人日本柔道整復師会に加入していないことが認められる。)の施術については、厚生省告示によつて療養費の支給額を算定する、との解釈をとることはできない。

よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、訴訟費用(参加によつて生じた費用を含む。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、九四条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 倉田卓次 下郡山信夫 大島崇志)

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